事業を始めるにあたって、「一人会社を設立するべきか、それとも個人事業主としてスタートするべきか」という悩みを抱える方は少なくありません。それぞれの形態には独自のメリットとデメリットがあります。本記事では、一人会社設立のメリットと個人事業主との違いを徹底比較し、どちらが自分にとって最適かを判断する手助けをいたします。
一人会社とは
一人会社とは、社長がひとりで経営している会社のことを指します。従業員を雇わず、社長自身が全ての業務を行う形態です。2006年に施行された「新会社法」により、会社設立の条件が大幅に緩和され、一人会社が一般化しました。
一人会社の形態
一人会社には以下の3つの形態があります。
1. 株式会社
2. 合同会社
3. 合名会社
それぞれの特徴を以下で詳しく見ていきましょう。
株式会社
株式会社の特徴は、出資者(株主)と経営者(代表取締役)が異なる点です。しかし、双方の役割を同一人物が兼任できるため、ひとりでも設立可能です。決算公告や役員任期更新の義務があるため、社会的信用を得やすいことがメリットです。
合同会社
合同会社は、出資者が経営権を持ちます。経営者の意思のみで会社のルールや経営方針を変更でき、役員の任期も自由に決められるため、経営の自由度が高いです。
合名会社
合名会社は、出資者全員が「無限責任」を負う形態です。会社が借金を負った際の返済責任が個人に及ぶため、リスクが高いです。一人で設立する場合、会社の負債を全額支払う責任があり、個人事業主とほとんど変わらないため、設立数は少ないです。
個人事業主との違い
一人会社と個人事業主の最も大きな違いは、法人であるか個人であるかです。事業の責任は、法人の場合は会社が、個人の場合は事業を行う個人が負います。
設立費用の違い
| 異なる点 | 一人会社 | 個人事業主 |
|———–|———–|————-|
| 設立費用(法定費用) | 定款認証:5万円、収入印紙代:4万円(電子定款では不要)、定款の謄本手数料:2,000円、登録免許税:15万円以上 | 不要 |
一人会社の設立には少なくとも24万2,000円ほどかかるのに対し、個人事業主は開業届を出す際に特に費用がかかりません。
責任の範囲
| 異なる点 | 一人会社 | 個人事業主 |
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| 責任の範囲 | 有限責任(会社) | 無限責任(個人) |
税金の違い
| 異なる点 | 一人会社 | 個人事業主 |
|———–|———–|————-|
| 税金 | 法人税、法人住民税、法人事業税など | 所得税、住民税、個人事業税など |
収益の所有者
| 異なる点 | 一人会社 | 個人事業主 |
|———–|———–|————-|
| 収益の所有者 | 会社 | 個人 |
一人会社を設立するメリット
一人会社を設立することで、個人事業主として事業を行うよりも有利になる場合があります。以下に、一人会社を設立する4つのメリットを詳しく紹介します。
信用度が向上する
一人会社はあくまで法人であり、収益や借金は会社のものとなります。プライベートと事業が明確に分けられるため、個人事業主よりも信用度が向上します。信用度が高ければ、新規取引先の開拓や金融機関からの融資が受けやすくなります。
所得税の負担を軽減できる可能性がある
一人会社で一定額以上の所得を得ると、個人事業主でいるよりも節税できる可能性があります。個人事業主には最大45%の所得税が課せられるのに対し、法人では最大でも23.2%の法人税が課せられるためです。具体的には、所得が800万円以上になると節税効果が高まります。
経費計上の幅が広がる
一人会社では、個人事業主よりも経費として計上できる支出の幅が広がります。例えば、役員報酬、退職金、生命保険料、出張時の日当などが経費として計上可能です。経費計上分は法人税の課税対象にならないため、節税につながります。
有限責任になる
株式会社や合同会社では、借金を負ったとしても返済の責任が出資額の範囲内に限られ、社長個人で弁済する必要がありません。つまり、事業が失敗したとしても自分の財産は失わずに済み、リスクを最小限に留められます。
一人会社を設立するデメリット・注意点
これまで一人会社のメリットについて詳述しましたが、デメリットや注意点も存在します。以下に、一人会社を設立する際に気を付けるべき代表的なポイントを五つ紹介します。
税理士でないと確定申告が難しい
一人会社は法人であるため、財務諸表の作成や法人税などの各種税務申告が必須です。個人の確定申告と比べて手続きが複雑であり、専門知識が求められるため、税理士の助けが必要になることが多いです。このため、税理士費用が追加のコストとして発生します。
法人口座との区別が必要となる
一人会社では、個人の口座と法人の口座を明確に分ける必要があります。事業の収支は法人用の口座で管理しなければならず、個人の生活費を事業の収支に含めることはできません。この区別を怠ると、税務上の問題が発生する可能性があります。
設立費用がかかる
一人会社の設立には、定款認証手数料、収入印紙代、登録免許税などの法定費用がかかります。株式会社の場合、最低でも24万円以上の設立費用が必要です。この初期費用の負担が大きいため、慎重に資金計画を立てる必要があります。
死亡時は会社を存続できないリスク
一人会社の場合、代表取締役が死亡した際に会社を存続できないリスクがあります。特に、定款に相続に関するルールを定めていない場合、事業の継続が困難になることがあります。事前に税理士や弁護士と相談し、相続対策を講じておくことが重要です。
社会保険料の負担額が増える可能性がある
法人には社会保険への加入義務があり、個人事業主の国民健康保険や国民年金と比べて負担額が増えることがあります。この負担増は将来的な年金受給額の増加を意味しますが、短期的には経営に対する負担が増えることに注意が必要です。
一人会社設立後の運営ポイント
一人会社設立後の運営において、いくつかの重要なポイントがあります。以下に、運営を円滑に進めるための基本的な手続きを紹介します。
1. 財務管理の徹底
一人会社では、個人と法人の財務を明確に区別することが不可欠です。法人の収入と支出を管理するために、適切な会計ソフトを導入し、定期的な帳簿の確認と整理を行いましょう。また、税理士と連携し、年度末の決算に備えることが重要です。
2. 契約書の作成と管理
一人会社であっても、取引先との契約書は必ず書面で交わし、適切に保管しましょう。契約内容を明確にすることで、トラブルの発生を防ぎ、信頼関係を築くことができます。契約書の内容については、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。
3. 社会保険と税務の適切な対応
法人としての社会保険加入手続きや、税務申告を適切に行うことが求められます。特に、社会保険の加入手続きや納税期限を守ることが重要です。これにより、行政からの信頼を得るとともに、法的リスクを回避することができます。
4. 定期的な経営見直し
事業が順調に進んでいるかどうか、定期的に経営状況を見直しましょう。収益や支出のバランス、顧客のニーズの変化などを把握し、必要に応じて経営戦略を修正します。経営コンサルタントの助言を受けることも一つの方法です。
まとめ
一人会社を設立することで得られるメリットは多岐にわたりますが、一方でデメリットや注意点も存在します。税務申告や法人口座の管理、設立費用の負担など、複数の課題に直面する可能性があります。これらの課題を理解し、適切に対処することで、安定した事業運営が可能となるでしょう。
一人会社を設立するかどうかを決定する際には、自身の事業規模や将来の計画、リスク許容度を総合的に考慮することが重要です。最終的に、個人事業主と比較してどちらが有利になるかを判断し、賢明な選択をすることが求められます。